中国厦門で行われたWINSPACE(ウィンスペース)の新製品発表会と工場見学に参加しました。
新製品発表会ともう一つの目玉イベントである工場見学では、フレームやホイールの製造から組み立て、品質管理、耐久試験、商品管理まで、工場のほとんどを見学することができました。
ここまでオープンにしているメーカーは聞いたことがありません。
また近年多くの中国ブランドが生まれ、玉石混交の中国ロードバイク製品が市場の中において、WINSPACEは他と何が違うのか、また欧米のメジャーブランドとの違いは何かなども窺い知ることができました。
この記事ではツアーの内容をメインに紹介しますが、たくさんのロードバイクメーカーの現状や表に出ていない情報もたくさん知ることができたので、ほとんどのロードバイクメーカーが中国の工場で製造しているという現状や、近年台頭している中国ブランドとWINSPACE、その他ロードバイクメーカー事情などは別記事にまとめる予定です。
WINSPACEの位置づけ
WINSPACEは2008年に日本で設立され、現在は中国の福建省厦門に本社を構えます。
中国国内では最も高い技術力を持ち、品質も群を抜いた最高級のレーシングバイクブランドに位置付けられ大変人気があります。
そんなメガブランドへ短期間で成長させた蔡正昌社長は日本での生活も長く、日本人の女性と結婚し居を構えています。
それゆえ2000年代から2010年代に粗悪な中国製品が流通し、日本では「中華ブランド」に対する心象が悪いことを良く知っています。
このイメージを払拭するため、2008年の設立以来、技術力を高め品質管理を徹底するという地道な努力を積み重ね、それによってこれほど勢いのあるブランドへと成長させました。
ちなみにトラックレース・スクラッチの現世界チャンピオンの窪木一茂選手は2014年の平潭国際ロードレースでWINSPACEに乗って優勝しています。
厦門(アモイ)
福建省厦門市は多くの企業が集まるビジネスの都市でもあり、厦門島の海岸線沿いは温暖な気候により多くの観光客で賑わうリゾート地でもあるという大変栄えた都市です。
その厦門島にWINSPACEの工場があります。
一周40km程度の小さな島の中に多くのカーボン製品の工場が集まっており、皆さんが知っている多くのメーカーのフレームやホイールなどのカーボン製品がこの島で作られています。
今回はWINSPACE JAPANからお声がけいただき、私とWINSPACE JAPANの担当者の2人で関西国際空港から厦門へ飛び立ちました。
厦門空港ではWINSPACE本国の担当者が迎えに来てくれました。
この方は中国人ですが、日本語も話せます。もちろん蔡社長も日本語ペラペラです。
厦門島はリゾート地でもあり、海沿いの風景や植生などから南国っぽい雰囲気が感じられます。
空港からはタクシーに乗り、南国らしい植生の街並みをスリリングなドライビングで走り抜け、厦門海悦山庄酒店という大規模なリゾートホテルに到着しました。
WINSPACEの大きな看板が立てられ、夜遅くに到着したにも関わらず、多数のWINSPACEスタッフがロビーで出迎えてくれました。
新製品発表会
翌朝、バイキング形式の中華料理を堪能し、新製品発表会が催されるホテルの会場へ移動しました。
会場前には新モデルをはじめ、派生ブランドのLEGITやUNAASなども展示されていました。
会場に入るとその人数の多さに圧倒されました。
私と同じように招待されて参加している人がざっと300人程度見受けられます。
パートナー会社などの特別な来賓やWINSPACE JAPANなどの各国のディストリビューターは最前列に席が指定されており、その後ろの席から自由にディーラーが座っているという感じで、私は本社の担当者と一緒に真ん中あたりに適当に座ってたのですが、蔡社長が一番前に座ってほしいと言ってくれて、場違いながら私も最前列に座りました。
新製品発表の前に、今年のWINSPACEに関する報告がありました。
ウィンスペースウィメンズチームがブエルタエスパーニャとパリ~ルーベに出場したこと、そして来年はツール・ド・フランス・ファムの出場を目指していることが発表され、大いに盛り上がりました。
蔡社長の目標は男女ともにツール・ド・フランスに出場するということだそうです。
最後に中国のナショナルチャンピオンでウィンスペースウィメンズチームで走っている選手との対談がありました。
新製品としてはLUN HYPER LIGHTという軽量ホイールとC5 AEROというワンピースモノコックの軽量エアロロードが発表されました。
C5 AEROはWINSPACEでは最もエアロロードらしいフォルムで、実際に風洞実験でも高い巡行能力が証明されています。
エアロロードとはいえレース全振りという乗り味ではなく、ロングライドでのパフォーマンスも重視しており、高めの巡行速度で長距離ライドをしたいという多くのサイクリストにぴったりな位置づけです。
セカンドグレードながらワンピースモノコック製法という他メーカーのハイエンドモデルでもほとんど採用されていない高度な製法で作られており、軽量かつパワーロスのない一体感と高い強度が実現されています。
LUN HYPERのより軽量なモデル、LUN HYPER LIGHT D45も発表されました。
前46mm・後54mmというリムハイトで重量1250gという超軽量モデルです。
こちらも来年発売予定です。
工場見学
昼食後、参加者は10台くらいのバスに分かれて乗り込み、厦門島北部のWINSPACEの工場へ移動しました。
WINSPACEは他にも工場があるそうで、厦門には同敷地内に2棟の生産施設があり、大まかにいうと製造と組み立てに分かれています。
どちらも社員が持つセキュリティカードがないと中へ入れません。
最近拡張されたということもあり、工場内はとても広く整然としており、これから生産台数が増えることを見込んだ規模だと感じました。
OEM生産を中心に技術力を集約し、WINSPACEというブランドを立ち上げましたが、現在ではこの厦門の工場と厦門以外のもう一つの工場でもOEMはほとんどやっておらず、自社ブランドの開発や製造に注力しているそうです。
見学時はAGILEやハンドルなどが製造されていました。
一般的にはフレーム内部の成型はバルーンを用いられますが、WINSPACEはシリコン製のモールドを使用しています。
最新モデルのT1550 2ndやSLC3、C5などはワンピース成型ですが、AGILEやハンドルは他メーカーと同様に2ピース以上の部材を組み合わせています。
そのメリットは2つ以上に分かれていることで接合時に調整ができるということです。
つまり多少アバウトに成型されてもある程度調整できるということです。
もう一つは空胞ができてしまうなどの欠陥が出た際に、その部材のみ処分すれば済むためコストが抑えられるということです。
これに関してはそもそも検査の環境はあるのか、検査基準はどうなっていているかが重要です
WINSPACEは全モデルではないものの製造から組み立てまで自社で完結しており、他にこのような生産体制をとれているメーカーはほとんどありません。
そのうえWINSPACEでは耐久試験から品質検査までを自社で行っています。
試験の内容は数が多く全て紹介できませんが一部紹介します。
例えば上の映像はホイールのハブを固定したうえでタイヤを前後に動かし続ける試験や、ウェイトをつけた状態で延々と回転させる試験の様子です。
フレームの耐久テストでは、フレーム固定してヘッドチューブを前後に動かし続ける試験や、BBの左右から負荷を掛け続ける試験などが行われています。
さらにはX線の試験設備も備わっており、目視で確認できない内部の空洞などの不良を検出するプロセスが工場内で完結します。
帰国後に他メーカーの人に聞いてみると、こういった試験をやっているのはごく一部の超大手メーカーだけで、通常他のメーカーはそこに依頼して試験をやってもらうそうです。
また組み立ての方でも様々な工夫や設備が入っていました。
例えばホイールの組み立て検査のために自社開発されたシステムが導入されており、これによってホイールのスポーク張力や振れなど全てのデータがホイール1本あたり数十秒で半自動的にデータ化が可能です。
工場見学の後、工場前の敷地でフレーム強度を視覚的に伝えるパフォーマンスがありました。
クレーンでC5 AEROを仲介して2t以上ある輸送コンテナを吊り上げていました。
なぜかランボルギーニも吊り上げられていました。
カーボン素材は頑丈だからそれくらいできるだろうと思うのですが、実はワンピース成型だからできるのであって、普通は継ぎ目の接着部分が耐えられません。
それを踏まえるとこのパフォーマンスの凄さが理解できるので、見た目のインパクトの割に本当の意味を理解するのは説明が必要だろうなあなど考えていました。
この工場見学では特に”品質管理や安全性を重視している”というメッセージが強く伝わりました。
それは蔡社長が「安かろう悪かろうの中国ブランド」というイメージを払拭し、世界的なブランドへ押し上げるためには信用が必要だという考えがあるからだと思います。
実際に中国国内でには恐ろしいほど安いロードバイクメーカーが数えきれないほどある中で、高級ブランドとして競争を勝ち抜き大成功している訳ですから、その点が大きく評価されているのだと思います。
晩餐会
工場からホテルに戻ったあと、大会場で晩餐会が催されました。
中国の有名?なバンドの演奏やダンスなどのパフォーマンスが引切り無しにあり、中華料理を堪能しつつ、58度の白酒で喉を焼いていました。
私たちのテーブルにはグローバルな面子が集められており、韓国や台湾、カナダのディーラーと同席しました。
晩餐会後、蔡社長の誘いでこのテーブルのメンバーで二次会へ行きました。
ホテルに帰ったのは4時前で、翌日の試乗イベントまでに起きれるか不安を胸に抱いたまま床に就きました。
試乗イベント(新ブランド”LEGIT”について)
ツアー最終日に試乗ライドイベントが催されました。
はじめは新モデルを乗りたいなと思っていたのですが、新製品発表会でLEGITが気になりすぎたので、今回はLEGIT L3を確保してもらいました。
LEGITに関しては別の記事で紹介できればと考えています。
50人以上のグループで海岸線沿いを約20km走るイベントで、ロケーションは良かったのですが、車が勢いよく出てきたり、横断歩道以外でも人がたくさん渡っていたりと、日本人の私にとってはなかなか緊張感のある交通事情でした。
最後に
短期間のツアーでしたが、日本のディーラーは私だけだったということもあり、WNSPACE本国の担当者とWINSPACE JAPANの担当者が付きっ切りで解説していただけるという、何とも贅沢なツアーとなりました。
特にWINSPACE JAPANの担当者には夜遅くまで質問攻めにして、ここでは書けない業界の事情なども含め貴重な話を聞かせていただきました。
当店は開業以来、商品の価値をできるだけ正確に捉え、あらゆる要素を考慮した価値とその価格が釣り合う良い商品を提案するよう心掛けてきました。
その意味でも今回はとても勉強になり、より具体的な提案や説明ができるようになったと思います。