トーマス・ピドコック 不運のパンク…からの大逆転で二大会連続の金メダル獲得!! | パリオリンピック MTBクロスカントリー

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エランクールの丘で行われたパリオリンピックのクロスカントリーマウンテンバイクで、トーマス・ピドコックが2大会連続の金メダルを獲得した。

コースレイアウトとしては正直面白いレース展開にはならないだろうと思っていたが、何度もどんでん返しがあるまさかのレース展開になったので、コースの特徴とレース内容を紹介する。

コース(エランクールヒル)の特徴

エランクールのコースは今大会のために標高230m程度の丘に造設されたコースで、距離約4.4kmを8周する。
元は作業道して使われていた道をベースにしているというこで、
そういう成り立ちのコースは全体を通して比較的なだらかで大人しいコースになりやすい。なのでそこにスパイスを加えようとするため、より整備された、人工的なコースになりやすいという特徴がある。

エランクールもその傾向にあり、全体的には整備された乾いた砂の道であり、テクニカルなセクションとしてはロックガーデンとジャンプ台と、狭いスラロームがある。
コースだけを取ってみればそれほど難易度の高いコースではない。

しかし整備されているがゆえに速度域が上がり、それによって平凡なセクションでも差がつく可能性がある。
また抜きどころも多くないため、レースとしては決して簡単なコースではないように感じる。

どんでん返し連発のレース展開

優勝候補としては前大会覇者であり、今シーズンも出場したほとんどのレースで優勝しているトーマス・ピドコックと、今シーズンのポイントリーダーであり、コースの特徴的にもパワー勝負を得意とするフランスのヴィクトル・コレツキーが最右翼。
スイスのフルキガーと38歳になった我らが英雄二ノ・シューターがそれに続く。

レース展開としては、出だしは比較的穏やかで、なかなかテクニカルセクションだけで大差がつくようなコースではないため、勝負は後半と思われた。

しかし3週目でピドコックがペースアップ。
これについて行けたのがコレツキーのみ。

このままピドコックが先頭で優位に展開するかと思いきや4週目でまさかのパンク。
ピットは準備ができていなかったため、コースに復帰したのは38秒遅れの9位。

まだ5週残っていたため、追いつく見込みはまだあったが、コレツキーのペースが落ちず、ピドコックもオーバーテイクに手こずり、なかなかタイム差は縮まらない状態が続いた。

5周目終了時点でタイム差は36秒。
この時点で多くの人がコレツキーの優勝を確信しただろう。

しかし、ようやく追走集団をパスしたピドコックは怒涛の追い上げを見せる。
一周あたり10分50秒前後、早くて50秒を切るくらいでラップしていたところ、なんと10分35秒で6周目を終えた。
この時点で先頭まで17秒差。すでに南アフリカのハザリーを抜いて2番手に上がった。

この勢いのまま7周目の中間あたりで先頭に追い付き、ハザリーを含む3人の先頭集団となる。

最初に勢いのあるピドコックが7周目のスプリット2の登りで仕掛けるも、パワーのあるコレツキーはしっかりついて行く。
おそらくコレツキーはただ追いつかれたのではなく、しっかり足をためていたのだと思われる。

このまま最終周回に入る。
ピドコックは何度もペースアップを図るが、テクニカルセクションが少なく平均速度が高いこのコースではなかなか差がつけられない。

そして今度はコレツキーが反撃に出る。
7周目でピドコックがアタックを仕掛けたところと全く同じ、スプリット2の登りでお返しのアタックを仕掛けた。

この狙いすましたアタックが効果的でピドコックに一時3秒差をつけた。
しかしその後のテクニカルセクションの終盤でピドコックが追いつく。
映像にはなかったが、ちょっとしたミスがあったのかもしない。

そしてそのままの勢いで先頭に出るも、この後は登りと平坦が続く。すぐにコレツキーが短い加速で悠々と前にでる。

ほとんどの人がこの時点でコレツキーの優勝を改めて確信したはず。
なぜならコレツキーの加速が圧倒的で、パワー差は明確なためゴール前の登りスプリントで悠々とピドコックを置いていけるはず。
そして最後のセクションは差をつけられるほどのテクニカルセクションではないはず。

しかし勝負がついたのは最後のセクションだった。

コレツキーが先頭のまま最後のセクションに入った。
左右に木々が立ち並びコース幅は一部狭いが決してテクニカルな要因はほとんどない。しかしコース内の木によってラインが一本になったり、複数になる箇所がある。

そこでピドコックは立木の左側からオーバーテイクを仕掛けた。その直後にある左コーナーでインを取るためである。

インを取られたコレツキーは並んだ状態で左コーナーに入ろうとする。しかしここにも立木があり、立木のイン側は並んで曲がれるほどのスペースはない。
コレツキーはイン側をブロックされた状態で左コーナーに入ってしまい、衝突を避けやむを得ずブレーキをかけた。

これが決定的な差となり、ピドコックが先頭でフィニッシュした。

ピドコックにはブーイングが浴びせられたが、ピドコックとしてはあの左コーナーしか可能性は残されていなかったし、決してルールに反するようなものではない。

というよりだれもあの何ということのない一本の立木を利用したオーバーテイクは思いつかないだろう。

コレツキーがもし冷静であればコーナーの前でインを締めていたか、そうでなくとも減速を最小限にピドコックの後ろをついてコーナーを抜ければ、登り基調のゴールスプリントで刺し返したはずだった。

不意を突かれたのか、それともコレツキーも足がいっぱいだったのか。

いずれにしても一瞬の出来事で勝敗が決まるというレースの非情さと、トップの中のトップのレベルの高さを感じる、素晴らしいレースだった。                                                                     

附録1:ピドコックはこのコースを「面白みがない」と評した

レース前のインタビューでは、ピドコックはこのコースは「面白みがない」と辛口の評価を下している。

私はこの意味をコースレイアウトの凡庸さを指しているものと思っていた。
たしかにこのコースはそれほどテクニカルではなく、平均速度も高い。
最終的に平均速度は24km/h超と、20km/hを切ることも多いXCOではかなり速い。

往年のクロスカントリーファンからは、近年のコース設計は視覚的な刺激を求めるあまり、人工的で難易度の高い障害物競走に成り下がっていると否定的な意見も多く、前大会の伊豆のコースも賛否が分かれたが、そもそも近年の選手であり、テクニカルセクションを得意とするピドコックとしては、このエランクールのコースですら物足りないと感じるのかもしれない。

しかしレースを見た後には、コースレイアウトによってレース展開が定型化されて面白みがなくなっているという意味も含まれていたのかもしれないと感じた。

つまりテクニカルセクションで技量で勝負をしようとも、単純な力勝負でひっくり返ってしまうコースレイアウトで何の面白みもないと揶揄したのではないかと。

ピドコックにとっては不利なコースなので、多分に私情が含まれていると思うが。

とはいえ、とんでもないレース展開になったではないか。
もしかしたらそういう分析をしていたから、最後の一刺しをはじめから計画していたのかもしれない。

附録2:男女揃ってイネオスグレナディアースが制す

前日の女子レースで優勝したフランスのフェラン・プレヴォもピドコックと同じイネオスグレナディアーズ所属の選手。

マシン性能差が出やすいコースレイアウトではないかもしれないが、男女ともPINARELLO DOGMA XCが制したということに。
フレームセットで100万円くらいと、憧れだけで買えそうにはない。

最後に、先日の女子レースで顔から落車してリタイアしたロアナ・ルコントは男子レースの観戦に来ていたので無事だった様子。

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