先日、自転車競技の世界選手権が行われました。
まずは日本期待の垣田選手がロードでどこまでやれるかといったところで、女子ジュニア5位入賞という素晴らしい成績でした。
優勝したバクステットが予想通りというか、圧倒的過ぎて完全に別カテゴリーのレースをやっていたので印象が薄れてしまいそうですが、素晴らしい結果だったことに変わりなく、これからが楽しみです。
さて、本題のタイムトライアル男子エリートでのイーサンヘイターのチェーン落ちですが、本人のコメントをはじめいくつかのメディアやブログで間違いや誤解が見受けられたので、簡単に整理しつつ、自分なりに考察してみます。
チェーン落ちの経緯
まず私はJSPORTSでリアルタイムで見ていたのですが、チェーンが落ちたシーンはバイクカメラが寄り気味で撮影していて、しかもすぐにVTRで確認できました。
ただ映像から100%鮮明に読み取れるわけではないので、少しもどかしいところはありますが、
事象としては、フロントギアをインナーからアウターへ変速しようとして、上がりきらずに内側へ落ちたということで間違いないかなと思います。
メディアやブログの反応
この件についてメディアやブログなどで見かけた意見の中には、
1.ヘイターはシマノが新型のシフターを作っていないからだと答えた
2.シマノ製のチェーンリングを使っていないからだ
3.インナー×トップでチェーンがクロスしていたからだ
というものがありました。
他にもたくさんあるようですが、この3点がポイントかなと思いますので、順番に私なりの意見を述べつつ、とくに3番目のリアのシフトポジションとの関係については詳しく見ていきます。
1.ヘイターはシマノが新型のシフターを作っていないからだと答えた
ヘイターがそう答えたのだとしたら、彼の誤解と言えます。
Di2システムで稼働量を決めるのはレバー側ではなくディレイラー側だからです。
2.シマノ製のチェーンリングを使っていないからだ
これは大きな要因と考えられます。
シマノ製のチェーンリングと比較して、それ以外のチェーンリングを使用した場合のチェーン落ちのリスクは明確に高いと言えます。
もちろんそれが必ず落ちるということを意味しているのでありません。
特にタイムトライアルではシマノ製以外のチェーンリングが使われることも多いですが、これはロードに比べてフロントのシフト頻度が低いことと、丁寧にシフト操作が行えること、そして得られるメリットが大きいことが関係します。
3.インナー×トップでチェーンがクロスしていたからだ
チェーンが落ちた区間の前の登りでインナーに入っていて、そのままリアをシフトアップしてインナー×トップになっていたからではないかという記事を見かけましたが、これは少し訂正するところがあります。
映像では不明瞭ですが、そもそもこのDi2システムではフロントがインナーだとリアのトップ側2枚には入らないと思います。
実際にチェーン落ちしたシーンはトップから3枚目のように見えます。
さらに言うと、DHポジションで使用するスイッチはおそらくSW-9071で、左右1スイッチしかついていないので、このスイッチではリアシフトのみを行い、フロントはシンクロナイズドシステムによってあらかじめ設定したリアの歯数で自動的にシフトチェンジされ、リアも適切なギア比に自動的にシフトされます。
またチェーン落ちする少し前ではリアがローギアに入っているのが確認できますので、速度やケイデンスからその時点ではおそらくアウター×ローギアだったと考えられます。
そこからギアを軽くしたのでインナーへ自動的にシフトされたのではないかと思います。
フロントがインナーの時に、リアがトップから三枚前目の時に、フロントがアウターに上がるようにシンクロの設定をしているのは、おそらくリアがトップよりの時、つまりチェーンラインが外よりになっているときの方が、フロントがアウターに上がりやすいということが分かっていたので、それでそうしているのではないかと思います。
ただしこれにはデメリットもあり、フロントがインナーでリアがトップよりのギアになったとき、チェーンテンションが抜けてチェーンが遊び易くなります。
これを避けるために、シマノの11s世代Di2ではインナー×トップには入らないようになっていたのですが、チェーンテンションが抜けている状態だとチェーンが暴れるためにフロントの変速ミスが起きやすくなります。
これも一つの要因だと思います。
考察まとめ
原因の考察として、シンプルにいってしまえばチェーンリングの問題となりますが、もう一歩踏み込んだ映像から読み取れた中での私なりの仮説をまとめると、
・チェーンリングがシマノ製ではなかったことから変速性能が低下
・その対処として、リアがトップよりになった時にフロントがインナーからアウターに変速するようにシンクロを設定
・トップよりの時にチェーンテンションが抜けたことによってチェーンが遊んでしまい、結果的にアウターに上がりきらずに内側へ落ちてしまった
あくまで推論にはなりますが、チェーン落ち一つとっても奥が深いです。
またヘイターのタイムが良かっただけに、こういった形でタイムを失ったのはとても残念でした。
これも機材スポーツ、ということでしょうか。